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出典
- 元URL: http://www.kokia-15th.com/interview/ (リンク切れ)
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Special Interview
2012年初夏、KOKIAは『History』と題したコンサートツアーを行い、過去と現在、動と静の大きな振幅の中で無二のアーティスト性をあざやかに表現した。DVD『KOKIA 2012 concert tour History』はそのツアーから6月2日、東京国際フォーラム ホールCのコンサートを収録している。(ライター: 浅羽晃)
—— ここ数年、KOKIAさんは主要なコンサートをすべてDVD化しています。KOKIAさんにとってDVDはどのような意味をもっているのですか?
KOKIA: コンサートにいらしてくださった方には表情や手の動きなど、細かいディテールを見ていただくことで、私がどんな思いを歌にのせているのかということを、より感じ取っていただけることと思います。コンサートに行きたかったけど行けなかったという方や、私のコンサートをまだ見たことがないという方には、DVDを観ることで、会場に足を運んでもらうきっかけになったらいいと思いますね。それに自分自身のために残しておきたいという思いもあります。私はそのうちミュージシャンをやめるとか、結婚して音楽をやめるというビジョンが自分の中に全くありません。むしろ、10年20年、音楽を続けられる限りやっていくんだろうなというのが自分で見えています。ですから、デビューしてからのこれまでの14年間でもかなり作風が変わっていったりとか、ステージで自分が成長したりとかっていう変化はありましたから、長くやっていけばいくほど、記録、軌跡として、毎回、映像を残しておくっていうことが大事な気がするんですね。
—— 曲間を詰めることなく、コンサートのすべてを収録している点が印象的でした。
基本的に私は、私のコンサートでは、余韻とか間というものがすごく大事だと考えています。ミュージシャンの中には、曲が終わるとすぐに次の譜面を用意したり、楽器を持ち替えたりする方もいます。それはもちろんサポートメンバーとしては当たり前の動きなんですけど、曲によってはエンディングが終わってから何秒かするまでは動かないでほしいとか、私がこう手を動かすまでは譜面は絶対にめくらないでくださいとか、お願いする時もあるほど、曲終わりの余韻は、歌を届ける上で大事な要素です。そのへんの空気感も含めてひとつのコンサートなんですね。コンサートをそういう考え方でつくりますから、DVDでもその余韻をカットすることなく、曲間が長く感じたとしてもそのまますべて収めます。楽曲を抜粋し、編集するという映像の残し方だとテレビ番組的な感じになってしまうのではないでしょうか。コンサートの始まりから、私がステージを去るまでのすべてが、今回でしたら“History”というコンセプトに則って私がつくったステージになるので、全部感じてほしい、見ていただきたいと思っています。
—— KOKIAさんの表情や仕草がとても自然で、そうしたことも理由でしょうが、ステージからはその世界観にすっと入っていけるような、リラックスした雰囲気が感じられました。しかし、決めるべきところは繊細な感覚でコントロールしているのですね。
ミュージシャンだけでなく、映像班や照明の方にも、私が余韻や間を大事にしていることを事前に伝えています。たとえば、エンディングで音が消えても、私の中ではまだ音楽が続いている曲などがあるので、そういった曲については私が手を伸ばしきるまで照明を絞り切らないでほしいとか、映像班はその手を絶対に追って撮ってほしいと、打ち合わせで説明してお願いするんです。なんだか細かくとても小さなことのようですが、そういったころが私のコンサートでは重要なポイントになっていると思っています。なので、ミュージシャンのためのリハーサル、スタッフのためのリハーサルを必ず通しでやります。通すっていうことが本当に大事で、1曲ずつうまくできることと、曲間の空気感を体で感じられる通しでできるということは全然違う意味があると思っています。
タイトルが示すように、『History』はデビューから14年間のKOKIAの歩みを凝縮したようなコンサートとなった。
—— 今回、ヒストリーをコンセプトにした理由はなんですか?
KOKIA: 今年は“特別詰め合わせアルバム!”と呼ばせてもらっている『心ばかり』をリリースしました。ここ何年間かの中で、オリジナルの書き下ろしアルバムをリリースしなかった年は初めてだったんですね。毎年、ずっと新しいものをつくり続けてきた中で、一度、曲を書く、レコーディングする、制作するということから離れられた時、すごくいろいろなことを考える時間ができました。当初は来年の15周年に、節目ということで、ヒストリー的なコンサートをやろうかと考えていたんです。でも、過去を振り返る15周年にするか、新しいことを示す15周年にするか?と考えた時、私は後者でいたいと思ったので、今年、過去を少し振り返るようなステージを行えれば、15周年に進む自分への締めくくりみたいな感じになるんじゃないかと思ったんです。
—— これまでのたくさんの楽曲の中からどのようにセットリストを決めたのですか?
選曲はすごく悩みました。偏ってしまうとよくないと思ったので、まず各アルバムから1曲ずつ選ぼうという感じで。今回は私の中で、ファンの方へサービスするコンサートという意識もありました。だから私が歌いたいというよりは、みんなが聴きたいんじゃないかしら?という頭で選ぶように心がけていました。ヒストリーだから、いろんな曲が聴けて、最近のステージではやっていなかったような元気な曲もあって、それぞれの時代に私の歌と出逢うきっかけとなった人達がみんな色んな曲が聴けて、楽しかったなという印象が残ってくれれば成功なんですけど。
—— 『trip trip』(2002年)から最多の5曲が選ばれていますね。
私にとってターニングポイントがいくつかあるわけですが、『trip trip』はそのうちの大きなひとつです。ファーストアルバムの『songbird』(1999年)の頃は自分が迷い人だった時代という感じ色濃く、その後、セルフプロデュースという形で音楽制作に目覚めだし、自分の音楽表現が始まったのが『trip trip』の時期なんです。その時期に残した楽曲には思い出深いものがあります。『trip trip』は世界中いろんなところを旅するようなアルバムで、私自身は“爆発アルバム”って言っています。このアルバムを創る少し前、ずっと思うように自分の制作ができない時期が続いて、“私はシンガーソングライターなのになんで自分の作品を出せないんだ”というフラストレーションを溜め込めたからこそ、私はシンガーソングライターだったんだということを強く感じられた時期でもあったんです。
—— KOKIA語(ローマ字表記の日本語を逆から読むなどする作詞の手法で、聴感上は既存のいかなる言語にも聞こえないが、書かれているものを解読すれば意味が理解できる)を初めて使った「調和〜oto」も『trip trip』の収録曲ですね。コンサートではスケールの大きな表現が圧倒的でした。
自分の音楽表現を見つけられないでいた頃、どうしていいかわからなくて、キーボードを持ってキャンプ場に行ったんですよ。静けさを感じて、でも、静かだなって言った瞬間に、川の流れや、森が風に揺れてざわざわと鳴っていたり、鳥の声も聞こえたりとか、無音ではなく、むしろ自然の中では音に囲まれていることに気づきました。その時、人工物から発せられる音は雑音に聞こえるけど、自然界が織りなす音っていうのは私達にとってすごくナチュラルにとらえる性質が人間にはあるんだなと思って。じゃあ、歌詞のいらない世界観、自然界の声のようなものを曲で表現できないかなと思って生まれたのが“調和〜oto”だったんですね。
—— CDとはアレンジを変えている曲もあり、ファンにとっては興味深いところです。
ファーストアルバムから選曲した“私は歌う小鳥です”は、原曲よりも少しマイナーな感じに聞こえるつくりになっています。デビューした当時、ライブハウスで弾き語りをするたびに1曲目に歌っていた曲で、どちらかというと明るくすがすがしい感じの曲調でした。それから14年経って、小鳥が大人になり、たくましくおおらかになった感じをイメージしたんです。
—— 『moment』(2011年)ではバンドをバックにした「5つ目の季節」をア・カペラで歌っています。
本来、CDに収録されている楽曲的には明るい曲調の曲なんです。けれど、歌詞のメッセージは私が歌を歌い出し、今日に至るまで、つまりKOKIAとして多くの人に出逢い、支えられてきたこれまでの心の変化を表している曲で、今回ステージを通して、いちばんファンの方達に伝えたいことだったので、楽しい雰囲気のままステージで終わってしまうのはいやだなと思ったので。思いを伝えたいときはシンプルなほうがいいと思って、この歌詞を伝えるためにはどういうアレンジがいいかなと考え、ア・カペラにするのがいちばん心への浸透率が高いと思いました。“私は歌う小鳥です”と“5つ目の季節”と“おばあちゃん”(2009年作『AKIKO∞KOKIA〜balance〜』収録)、この3曲が続くパートは今回の『History』の軸になっている部分です。祖母という存在は、歌手KOKIAを誕生させる重要な人物だったと私は思っています。祖母が亡くなって、“おばあちゃん”という曲を書いた時、すごくプライベートな感情を込めて書いた曲だったので、ステージで歌うような機会は訪れないと思っていました。けれど今回はヒストリーというコンセプトだからこそこの歌を歌えたのだと思います。
—— ピアノ弾き語りの「愛はこだまする」(CD未収録曲)はオーディエンスとのコールアンドレスポンスが会場のあたたかい雰囲気を伝えます。
まさにこの曲は控えめなお客様と自然にコールアンドレスポンスをするために書いた曲なんです。私のコンサートでは“元気な曲をみんなで歌おう”みたいなことはしなくてもいいと思っていますが、コンサートを静かに楽しみたいというような方たちが、ふわっと自然に参加できる曲があったらいいなと思っていました。
—— 照明と映像によるステージ演出がとても効果的です。地球や生命をイメージする演出で、音楽の世界観を巧みに表現していますね。
[注: 元ウェブページにはこの箇所に画像があるが、保管されてなかったため不明]
ポイントとなるのはシンプルなセットを照明によってどう見せるかということです。照明は、私が独立してから6年間、原英和さんという方がやり続けてくださっているんですけど、音にかかわる方と同じように重要ですね。私の歌のことをよく理解して聴き込んでくれている照明さんが居なければホールコンサートで私が伝えたい完成された世界観は伝えることができないと考えています。
—— 「人間ってそんなものね」(『trip trip』収録)で、ステージ上手から放射状に光が広がり、下手のカメラが逆光でKOKIAさんをとらえるシーンが美しいですね。
逆光と私が重なりあう画はとても気に入っています。ああいった画を絶対に撮ってほしかったので、映像班と照明さんと私とで打ち合わせして、立ち位置を決めたりしています。アーティストの現場は本当にそれぞれですけど、そこまで付き合ってひとつのステージを一緒につくってくださるスタッフはありがたいですし、そういう状況を少しずつ整えていくことができたことが独立をしてよかったなと思う宝物だと思っています。
過去と現在に等しく向き合ったコンサート『History』をDVDに記録し、KOKIAは15周年の新たな展開へ向けて始動している。
—— アルバムのリリースは来春ですか?
KOKIA: そうです。いままさにアルバムづくりの第一段階なんですけど、悩んで大変です。大きなコンセプト、向かいたいところは決まっていて、曲はたくさん書けているんですけど、いやこれは違うんじゃないか、これも違うんじゃないかということを繰り返してしまっています。『心ばかり』をリリースして、『History』という節目も迎え、私の気持ちは今、これからの私を探しています。これからの10年歌ってゆく歌、残していく楽曲ってどんなのがいいのだろうと、良い意味で真面目に考えすぎちゃったんでしょうね。私はふだん、あまり音楽は聴かない方だと思うし、テレビもそんなに見ない方だと思うんですけど、曲を書くためにピアノに向かったとき、知らないうちにJポップというものが体に染みついちゃっているんだなと今回感じました。ミュージシャン同士で、A-B-A-間奏-Cとか、A1-A2-B-Cとか、そういうふうな会話をよくするのですけど、昔はそんな風に構成立てて曲を理解したり、書くなんてことはありませんでした。サビへの展開とか、サビって呼んじゃってること自体、ああ、なんだか私らしくないなあって急に思ったんです。1度そういうことを全部忘れてまた曲を書いてみたいなと、いまは思っているんです。曲はだいたい4分半くらいにしようとか、そんなことは考えずに、自由に創る音楽。歌詞についても、以前と比べたら伝えたいことの方向性が自分の中でまとまってきたがゆえに、とても優等生的な目線のものが多くなった気がします。それは自分が伝えたいことであり、私の個性なのでいいこととは思うんですけど、もっと幅の広いテーマを掲げた曲があっても面白いと思うので、そういう楽曲を素直にもっと書きたいなと思って、何の曲を書こうか、テーマを探しています。
—— ジャケットはすでに決まっているそうですね。
南の島で撮影してきました。『REAL WORLD』(2010年)のときはサハラ砂漠でしたが、今回はバリ島です。サハラ砂漠とは対照的に、湿度の高い、人の顔が見える穏やかな場所です。南の島ののんびりした雰囲気にあうおおらかに開かれていく感じのアルバムにしたいんです。なので、起承転結のはっきりしすぎる曲や、尖った曲は入っていないようなアルバムにしたいんですね。もしかしたらそれは少しいつものアルバムに比べたら変化に乏しく、薄味に感じる方も居るかもしれない挑戦なのですけど。私はそんなアルバムが創りたいんです。アルバムのコンセプトは“カラー・オブ・ライフ”です。楽しい風景あり、寂しい感じの風景あり、いろんな場面の思い出に楽曲が重なり、みなさんの人生を彩るアルバムになったらいいなと思っています。